動画解説はこちら
そもそも四十肩(五十肩)とは?
四十肩(五十肩)とは、肩関節の周りに炎症が起こり、スムーズに動かなくなる症状のことです。
そもそも四十肩という病名は存在しません。日常会話の中で使われる「俗称」という位置づけです。「肩こり」や「ぎっくり腰」などと同じような用語になります。しかし、あまりに一般的に使われ、さらに、その四十肩 (五十肩) に完全にピッタリな正式病名がないことから、しばしば病院やクリニックでも四十肩 (五十肩) という言葉で説明されることが多いかと思います。実際、僕自身も四十肩や五十肩という言葉はよく使って説明します。
この四十肩とか五十肩って言うのは、ご存じだと思いますが、40歳代から50歳代に多い肩の痛みという、それだけの意味だったりします。ですから、「あなたは四十肩ですね」っていう説明だけでは、ほぼ何の説明にもなっていないわけです。四十肩 (五十肩) という言葉を使って説明をする際には、「俗に言う四十肩 (五十肩) と言って、具体的には・・・」という、原因にまで説明をするようにしています。
四十肩(五十肩)はピッタリな正式病名がないと言いましたが、広い意味での病名としては肩関節周囲炎というものがあります。これは肩関節の周りに炎症が起こっているという、これまたザックリした病名になるわけです。
四十肩(五十肩)の正体は「肩関節周囲炎 / 癒着性肩関節包炎」
四十肩 (五十肩) の原因は、具体的には腱板というインナーマッスルのスジに炎症が起こっている腱板炎であったり、力こぶの筋肉である上腕二頭筋の一部のスジに炎症が起こっている上腕二頭筋長頭腱炎であったり、腱板疎部という肩の前方の膜や靭帯からなる部分に炎症が起こる腱板疎部炎であったりします。
肩関節周囲炎とは以下に起こる炎症のことをいいます。
- 腱板の筋に炎症が起こっている腱板炎
- 上腕二頭筋の一部の筋に炎症が起こっている上腕二頭筋長頭腱炎
- 腱板疎部に炎症が起こる腱板疎部炎
これらのどこに炎症が起こっても肩関節周囲炎という病名で括られてしまいます。さらに、狭い意味での典型的な四十肩 (五十肩) としては癒着性肩関節包炎という病名があります。これはかなり原因が絞られて、関節包という肩関節を包む膜に炎症が起こり、最終的には癒着してぶ厚くなってしまう状態です。
この癒着性肩関節包炎が、肩の強い痛みの後に、可動域が狭くなる、つまり肩が挙がらないとか回らない状態に至る典型的なケースだと考えています。
ケースバイケースですが、四十肩(五十肩)の原因は、このように肩の周囲に炎症が起こっていたり、肩の関節包に炎症が起こったり癒着していることを、四十肩 (五十肩) の原因として説明しています。
ただ、厳密に言えば四十肩 (五十肩) で肩に起こっていること(メカニズム、正体)というのが正しい表現かもしれません。
つまり、なぜ四十肩 (五十肩) は炎症が起こったり、癒着が起こってしまうのか?ということに対する答えが原因になるとすれば、その原因は複雑です。
複雑で明らかでない部分ですから、いろんなことをおっしゃる先生や治療家の方がおられます。この場でご理解いただいておいてほしいのは、「原因は明らかではない」ということと、「肩甲骨の動きの関係はあると考えられる」ということ、くらいです。他にも手首が原因だとか、前腕の筋肉が原因だとか、いろいろな説を唱えられる方がおられるので困惑してしまうかもしれません。
しかし、ご安心ください。四十肩 (五十肩) の治療はそういう厳密な意味での原因を改善しないと治らないものではありません。四十肩 (五十肩) で肩に起こっている炎症や癒着による拘縮などを改善すること自体が根本治療になります。そうでないと、四十肩 (五十肩) という言葉はあり得ません。それらの原因はご年齢とともに勝手に改善するわけでもないにも関わらず、六十肩、七十肩って言葉はありませんよね。
つまり、40歳代、50歳代に起こりやすい肩関節包の炎症や癒着を改善させることさえできれば良くて、その根本原因が改善されなければ、いつか60歳、70歳と年齢が増すにつれて六十肩や七十肩になってしまうという類いの疾患ではないということです。
四十肩 (五十肩) に典型的な症状とは?
この四十肩 (五十肩) の典型的な症状について解説します。
四十肩(五十肩)の主な症状は以下になります。
- 腕を上げると痛みが出る、硬くて動かしにくい
- 腕を背中に回すと痛みが出る、硬くて動かしにくい
- 肩を開くと痛みが出る、硬くて動かしにくい
- 特に肩の前に痛みが出ることが多い
狭い意味での四十肩は癒着性肩関節包炎という病名で示されると説明しましたが、その炎症や癒着が起こる関節包は肩を全周性に取り囲んでいます。つまり、関節包は肩の前にも下にも後ろにも上にもあるわけです。ですから、典型的な症状の特徴は「全方向性の症状」と考えています。そのため、上に上げようとしても、腕を背中に回そうとしても、肩を開こうとしても、あらゆる方向への動きで痛みが出たり、カタくて動かせなかったりするわけです。
ただ、関節包の中でも特に強い症状が初期から出やすいのが肩の前の腱板疎部という部分です。つまり、肩の前に痛みが出ることが多いということです。
また、四十肩 (五十肩) というのは炎症期、凍結期、回復期という順番で・変化改善していくと言われていて、最初は強い炎症による痛みがきて、その後、痛みが減って関節がカタくなる(拘縮)、そして、その拘縮も回復していく。という流れです。
これが典型的な四十肩 (五十肩) として説明されていますが、多くの四十肩 (五十肩) の患者さんを診察していると、この典型的な症状に沿って進んでいく方は必ずしも多くないんです。最初から痛みが強くない方もおられれば、痛みが強い時期からなかなか抜け出せない方、強い拘縮を起こして日常生活が不便になる方もおられます。中には、痛みはあっても肩の可動域は十分保たれているという人もいます。
そして、なにより自然に数ヶ月で回復すると思いきや1年、2年、時にそれ以上と、年単位で苦しまれる方もおられるということです。このように一口に四十肩 (五十肩) と言っても、様々な症状を呈する方がおられますから、一度診察を受けていただき、状態に応じた根本治療を相談されることをオススメしています。
四十肩(五十肩)で腕が上がらない原因
四十肩(五十肩)で困る症状として、多いのが「腕が上がらない」という状態です。バンザイは当然できないし、それどころか、つり革も握れない、頭上のモノには手が届かないという状態になります。
この腕が上がらないというのは、正確には肩関節の挙上(前から腕を挙げていく)と外転(外から腕を挙げていく)という動作です。この動作ができなくなる、それもカタくて(もしくは痛くて)上がらないという場合の原因のほとんどは
関節包の下の方が炎症して分厚くなっている
ということに尽きます。
いや、それ以外にもいろいろと原因があるのでは?と思われるかもしれませんが、関節鏡手術でこの関節包の下の方に切れ目を入れるだけで、それまで全然上がらなかった腕がすぐに上がるようになる場面を毎週見ている僕としては、それ以外にも原因があるけど、むしろ小事でしかない。そのほとんどは関節包で決まると、特に四十肩(五十肩)においては言い切れます。
ちなみにこの「関節包の下の方が分厚くなる」というのはMRIでもかなりわかりやすく見ることができます。
こちらの画像で赤く丸で囲った部分が「関節包の下の方」です。腕が上がらない人は丸の中の「黒から灰色」の部分が膨れているように見えますよね。この黒から灰色(炎症があると灰色になります)部分が関節包です。
厚さにして3倍くらいになってるのがわかります。
こんなに分厚くなってしまったために関節包が伸びなくなって、下が伸びないということは、腕が上がらないということになります。
このシンプルかつ根本的な原因がわかると、対策も自ずとシンプルになります。それは主に3種類です。
関節鏡手術
この分厚くなった関節包に切れ目を入れてしまい、関節包を強制的に伸びるようにしてしまう関節鏡手術。これを関節鏡下授動術、別名、関節鏡下関節包リリースと言います。
歌島が専門的に行っている手術で、直接分厚くなった関節包を内視鏡で見ながら、そして、止血をしながら切れ目を入れることができます。それゆえに効果が高く、再発率も低いことが知られています。7年にも及ぶ長期成績を調べた研究(*1)では、最終的に後遺症は残らず肩の可動域は逆側の肩と同等であったことが示されています。
サイレントマニピュレーション
こちらは入院も必要なく、外来診察室で行えるので、かなり普及している治療法です。神経ブロック注射で肩を動かした時の痛みを抑えた状態で、肩の限界を超えて医師が動かす方法です。その結果、分厚くカタかなった関節包がちぎれます。これは関節鏡手術と同じメカニズムで腕が上がるようになります。
しかし、直接、関節包を見て適切な部位に切れ目を入れ、止血をする関節鏡手術とは異なり、関節包が骨にくっつくところ(関節唇や上腕骨付着部)でちぎれてしまうこともあり(*2)、また、出血も止める手段はないので自然と止まるのを待つしかありません。また、稀ですが、腱板断裂や骨折を起こしてしまうという報告もあります(*3)。
以上より、関節鏡手術のスキルと経験がある私としてはサイレントマニピュレーションはあえて行っておりません。
セルフストレッチ・セルフリハビリ
分厚くなった関節包に切れ目を入れることはできませんが、毎日、少しずつ伸ばしていく(ストレッチ)ことで、柔らかくしていくことができます。ですから、まずは手術の前にこのストレッチをご提案することが多いです。
一方で凍結肩の自然歴(長期的にどのような経過を辿るか)を調べた研究(*4)では症状が長く続く場合は軽度ですが、関節可動域の制限が認められることが報告されていますので、リハビリでの改善が乏しい場合は上記の手段も選択肢に入れたいところです。
参考文献
つらい肩関節の痛みでお悩みの方、ご相談ください
肩が痛くて夜眠れない方、軽くない痛みが持続している方など、肩関節の痛みでお悩みの方は、一度ご受診いただければと思います。
まず、お身体の状態を知ること。原因の早期発見・治療が大切です。
横浜町田関節脊椎病院
日本整形外科学会認定整形外科専門医
医師 歌島 大輔
四十肩 (五十肩) で腕が痛い時の対処法
四十肩 (五十肩) の典型的な症状について解説しましたが、「肩」が悪いのに「腕」が痛いという悩みをお持ちの方がおられます。この「肩が悪いのに」という根拠は肩を動かすと痛みが走るということになります。「肩じゃなくて腕が痛いんです。でも、痛みが出るのは肩を動かしたときです」という人、意外と多いんですね。
これは厳密なメカニズムは明らかにはなっていません。肩から出る末梢神経が原因の可能性とか、肩の動きが悪いがために筋肉がこわばっているせいだとか、肩を動かす三角筋の付着部の炎症だとか、様々なことが考えられています。いずれにしても、「肩を動かして腕が痛い場合」にもMRIなど精密検査をして異常が出るのはほとんど「肩」であって、「腕」には問題がなく、さらに、「肩」に適切な治療をすることで「腕」の痛みが改善することが多いというのは経験上、感じています。
四十肩 (五十肩) と思いきや別の病気の可能性は?
腕の痛みの場合も含めて、四十肩 (五十肩) と思いきや別の病気や怪我だったという可能性もあります。一番多いと感じているのは腱板断裂です。
別で詳しく解説しておりますが、腱板断裂というのは「肩を安定して動かすために大切なインナーマッスルのスジ=腱板」が切れてしまう(断裂)ことです。そう聞くと、よほどの大ケガかと思われるかもしれませんが、意外と思い当たる節がなくて腱板断裂を起こしている方がおられます。特に60歳以上のご高齢の方に増えてきます。
その他に肩の軟骨がすり減った変形性関節症という状態や肩がグラグラする不安定症という状態がきっかけで肩が痛くなったりもします。さらには首のヘルニアなどが原因で神経性に肩の痛みや力が入りにくいということもありますし、非常に稀ですが内臓の病気の徴候が肩に出ることもあります。
内臓の問題以外では、最も専門的に診察できるのは整形外科医の中でも肩を専門(サブスペシャリティ)とする医師です。ですから、四十肩 (五十肩) という診断を受けた場合でも、今一度、肩を専門にする医師の診察を受けていただくこともご検討ください。
四十肩 (五十肩) の夜間痛対策 −オススメの寝方と枕−
四十肩 (五十肩) に限らず、肩の痛みは夜間に横になると強まります。ですから、眠れないとか、途中で痛みで起きてしまうというように睡眠障害の原因になったりする厄介なモノです。なぜ夜間に痛みが出てしまうのかということは諸説ありますが、痛みが出やすい寝方と出にくい寝方というのはあります。
最終的には個人差も考慮して、試行錯誤をしていただきたいのですが、一般的には痛い方の肩を下にした横向きは痛みが強まりやすいです。さらに、痛い方の肩の腕、肘が背中側に位置していると痛みが増しやすいという傾向もあります。この2つの痛みが出やすい姿勢を避けるために、睡眠中に意識することは不可能ですから、睡眠環境を工夫するしかありません。
四十肩(五十肩) (五十肩) の夜間痛対策のためのオススメの寝方と枕の使用方法
- 仰向けで寝始める時:痛い方の腕、肘の下に柔らかいクッションを置くことで、そちら側に寝返りが打ちにくくなりますし、腕も背中側に落ちなくなりますのでオススメです。
- 横向きで寝る時:痛くない方の肩を下にして、背中側に大きめのクッションを置いて、さらに、お腹側にもクッションを置いて、そのクッションを抱えるようにすると痛みが出にくい傾向があります。
睡眠環境と言えば、枕を調整する、変えるというイメージになります。しかし、四十肩 (五十肩) の場合は肩、腕の姿勢や全身の体勢を変えることで痛みが変わることが多く、枕の効果は少ない印象があります。ただ、肩こりのような肩甲骨周囲の痛みや首の痛みがあれば枕の調整をする価値はあると考えます。
四十肩 (五十肩) の検査「レントゲンでは異常が出ない?」
「四十肩 (五十肩) ですね」と言われる場面はたいていレントゲンを撮ったあとだろうと思います。しかし、多くの場合、四十肩はレントゲンでは異常がでません。むしろ、レントゲンで異常がないことを根拠の1つとして「四十肩 (五十肩) ですね」とおっしゃる先生が多いのが現状です。
それならレントゲンを撮る意味がないのではないか?と思わせてしまいますが、レントゲンで見つかる異常もあるんです。
結構多いのは石灰沈着性腱板炎というものです。肩のインナーマッスルのスジにカルシウムなどを成分とした石灰が沈着し、レントゲンでその石灰が写ることがあります。この石灰沈着性腱板炎の症状で典型的なのは救急外来に相談に来られるくらいの激痛か、慢性的に石灰部分がこすれるようなインピンジメント症候群という状態が続いてしまうことです。
激痛がある時は炎症を抑えるステロイドの注射が特効薬かのように効くことが多いですし、慢性的なインピンジメント症候群を起こしている場合には石灰に対する処置としての手術も選択肢に入ります。石灰以外にも軟骨がすり減ってしまう変形性肩関節症や腱板断裂を疑う間接所見としての骨棘(骨が通常よりも出っ張っている部分)形成の有無などを判定していきます。
一般的にはレントゲンだけ撮って、その他は症状を伺って、診察をした結果で四十肩 (五十肩) の診断になることが多いですが、私の診察の場合はさらに精密検査として超音波検査やMRI検査についても相談いたします。先ほど述べた、「四十肩 (五十肩) かと思いきや腱板断裂だった・・・」というようなケースが実際にあるということと、四十肩 (五十肩) でもエコーやMRIで炎症を起こしている部位などを見つけることができるというのが理由です。
CTやMRIがある病院やクリニックできちんと検査し、自身の肩関節の状態を知ることが治療の第一歩です。
四十肩 (五十肩) の根本治療法3ステップ
では、四十肩(五十肩)の根本治療法について解説していきます。特に、狭い意味での四十肩である癒着性肩関節包炎を根本的に治療するという意味で、私が提案している3つのステップを解説いたします。
四十肩 (五十肩) は一般的には放っておけばいつかは治ると言われていますが、多くの患者さんを診察していると実態はそうではないと感じさせるケースが多々あります。一口に四十肩 (五十肩) と言っても、そのとき、そのときに肩の中で何が起こっていて、その起こっていることに対して適切に治療していくことで、治療期間を短縮し、完治を目指すことができると考えています。
そして、この根本治療の3ステップは3ステップともターゲットは「関節包」です。何度もお伝えしているとおり、狭い意味での四十肩 (五十肩) は癒着性肩関節包炎ですから、その関節包をターゲットにしない限り根本治療とは言いがたいわけです。
《四十肩(五十肩)の治療のステップ》
《四十肩(五十肩)の治療のステップ》
- ステップ1. 四十肩(五十肩)の強い炎症には消炎鎮痛剤の内服と注射
- ステップ2. 四十肩 (五十肩) の拘縮(カタい)にはリハビリ
- ステップ3. しつこい四十肩 (五十肩) には関節鏡下授動術を検討
四十肩(五十肩)の根本治療法ステップ1
強い炎症には消炎鎮痛剤の内服と注射
まず肩の強い痛みで、夜も眠れない、ほとんど動かせないという状態は肩の中で強い炎症が起こっている状態と判断します。その場合はまずその強い炎症を鎮めてあげないといけません。ですから、この段階で「四十肩 (五十肩) はカタくなるから、どんどん動かしなさい」と言われて頑張ってしまうと、炎症は強まり、痛みはさらに悪化するという残念な結果になりかねません。つまり、リハビリは次の段階です。
では、この段階で炎症を鎮める治療としては、その名の通り、消炎鎮痛剤を使用することになります。いわゆる痛み止めですが、炎症を抑える作用があるステロイドや非ステロイド系の消炎鎮痛剤を主に使います。ステロイドはとても強い消炎作用がありますが、その分、飲み薬や点滴など全身投与をすると様々な副作用のリスクがあります。ですから、四十肩 (五十肩) でステロイドを使うのは主に肩関節の中にだけ充満させる関節注射としてステロイドを使用します。それでも何回も注射をすれば、軟骨を傷めてしまったり、腱を傷めてしまうリスクもあるので、私の場合は注射の強さを調節しながら3−5回までに制限しています。
このステロイドほど強くない治療として、非ステロイド系消炎鎮痛剤(商品名でロキソニンやセレコックスなど)を使用することになります。これは副作用がステロイドほどは強くないので、飲み薬として使用していただくことが多いです。これらの投薬やある程度の安静をすることで、肩の強い炎症が鎮まり、痛みがある程度落ち着けば、次のステップに進みます。
四十肩(五十肩)の根本治療法ステップ 2
拘縮(カタい状態)にはリハビリを
強い炎症が落ち着いて、ある程度の痛み(完全に痛みが消失している必要はありません)になった段階で、多くのケースでは肩の関節可動域が制限されています。つまり、肩が挙がらない、回らない、「カタい」状態です。この「カタい」状態はそれ自体が動かした時の痛みの原因にもなります。それはそうですよね。挙がらない状態を越えて挙げようとすれば痛みが走る、回る限界を超えて回そうとすれば痛みが走るのは当然と言えば当然です。
つまり、この「カタい」状態と、それが故の痛みを改善させるためにまず行うのがリハビリです。このリハビリですが、セルフリハビリを中心に行うことを推奨しています。つまり、自宅で自分で行うリハビリです。その理由は「痛みは自分しかわからない」からなんです。リハビリとして行うのは可動域を拡げていくことになりますが、その作業は大抵は痛みを伴います。それでも挙がらない限界を攻めていく、回らない限界を攻めていくことによって可動域は拡がっていきます(とは言え、痛みがある肩は可能な限り力を抜くことが大切です。)。
しかし、頑張りすぎてしまえば、炎症が強い段階に逆戻りしてしまうリスクがあります。ですから、いつも患者さんに説明するのは「次の日の同じ時間に痛みが増していない、同じレベルまで回復しているリハビリ強度にとどめてください」ということです。逆に言えば、翌日に痛みが元のレベルまで回復するなら、攻めても良いという判断基準をお示ししています。これって、もう自分しかわからないわけです。リハビリの量や強さを自分の痛みを指標に微調整していく。これが大切なのでセルフリハビリが中心になると説明しています。 ただし、最初はどういう風にリハビリをして良いかわからないと思いますので、療法士の指導をを受けていただいています。
四十肩(五十肩)の根本治療法ステップ 3
しつこい四十肩 (五十肩) には関節鏡下授動術
第2ステップのリハビリテーションの結果、肩の可動域が拡がり、「カタい」状態が改善されてくれば、その後、痛みも改善していくことが多いのですが、どうしても可動域が拡がらない、「カタい」ままという方がおられます。もしくは、痛みがどうしてもしつこいという方もおられます。
そういった方に対して、特に可動域を拡げることを主目的に関節鏡下授動術という内視鏡を使った手術を行っています。肩関節の可動域が悪い状態(「カタい」状態、拘縮状態)の原因のほとんどは癒着してぶ厚くなった関節包ですから、内視鏡で関節包を観察しながら、電気メスでクリーニングし、癒着を剥がし、切開していきます。その結果、手術終了後には肩の可動域はほとんど正常範囲まで改善していることが多いです。
そして、翌日以降のリハビリでその可動域を自分のものにしていただくということになります。つまり、関節鏡手術と翌日以降のリハビリがセットの治療になります。入院期間としては最短で2泊3日ですが、リハビリをしっかり行いたいという場合に1週間くらいは入院継続していただくことも相談いただけます。早期退院の場合にも最初は頻繁にリハビリ通院いただくか、自宅でのセルフリハビリを徹底していただく必要があります。
四十肩 (五十肩) で手術というと驚かれる方もおられますが、実際は小さい手術創から行う内視鏡手術で30分もかからないことが多いです。しつこい四十肩 (五十肩) の場合、時に年単位で苦しまれ、さらに完治とは言いがたい状態が続いてしまうケースを拝見しますので、選択肢として3ステップ目でご提示することがあります。
四十肩 (五十肩) 改善のための補助療法
その他に四十肩 (五十肩) に対する治療は様々な方法が提唱されています。ここではそれらの治療法について、当院では行っていないモノが多いですが、私がどのように考えているかについてご提示します。
四十肩 (五十肩) の根本治療というののターゲットは「関節包」だと言いました。しかし、ここで解説するような治療法は主に関節包よりも外側、表層に位置する筋肉が主なターゲットです。「ここの筋肉がカタいねぇ」と言われながら、マッサージを受ける、鍼治療をする、整体治療を受けるというようなことがイメージされます。逆に言うと、マッサージや鍼灸など、外からのアプローチでは関節包には効果がほとんど届かないという事実があります。ですから、これらの治療は根本治療ではなく補助療法だという認識が大切ではないかと思います。ただ、これは業種によって考え方も異なる点だと思いますので、あくまでも私の考え方であり、その理屈はこれまでにご説明させていただいた通りです。
四十肩(五十肩)の補助治療について知っておきたいこと
四十肩 (五十肩) に整体で期待したい効果
整体に代表される徒手療法は整骨院で柔道整復師の先生が行うこともあれば、国家資格ではありませんが整体師の先生が行われることがあります。
これらの徒手療法で期待したいのは筋肉のリラクセーションです。マッサージや軽く肩甲骨を動かすことなどによって、肩甲骨周り、肩周りの筋肉がリラックスして、動きや痛みが改善するという補助的な効果を期待します。この筋肉のリラックスを目指した治療ではなく、例えば、可動域を拡げるために「ある程度ムリヤリ動かされる」などの施術もあるかと思います。これは下手をすれば、炎症を強めるリスクがあります。だからこそ、根本治療のステップ2でセルフリハビリを中心に行うべきと解説したわけです。私はこういった、可動域を拡げるために無理に動かされる治療はリスクが大きいと考えます。
四十肩 (五十肩) に鍼灸・ツボ押しで期待したい効果は?
鍼灸やツボ押しは東洋医学の領域になりますので、私は専門的知識には乏しいと言えます。ですが、根本的な考え方は先ほど同様、肩関節周り、肩甲骨周りの筋肉のリラクセーション、コンディション改善になるかと思います。四十肩(五十肩)における鍼灸・ツボ押しの効果は、あくまで四十肩 (五十肩) においては補助的な治療です。
四十肩 (五十肩) を改善させる体操とは?
四十肩 (五十肩) を改善させる体操としては様々なものが提唱されていますが、原理原則は根本治療のステップ2のセルフリハビリになります。このセルフリハビリで行う動きが、まさに四十肩体操と言ってもいいかもしれません。それ以外に、補助的に効果が期待できるのは肩甲骨の動きを改善させるように肩甲骨を大きく回したり、寄せたり開いたりするような体操です。
四十肩 (五十肩) にストレッチやリンパマッサージで期待できる効果は?
ストレッチやリンパマッサージと呼ばれるものも、筋肉のリラクセーションを期待して行います。リンパマッサージは厳密には異なり、特に産婦人科領域で行われる治療ですが、四十肩にも効果があると謳われていることがあります。実際、ここでは解説していませんが、関節包が炎症するメカニズムに血管が関与していることも指摘されていて、血管とリンパ管も密接な関係がありますから、四十肩(五十肩)におけるリンパマッサージは補助的とは言え、効果を実感される人もおられるようです。
ここでの補助的な治療全般に言えることですが、数回継続して効果が期待できれば、さらに継続も検討いただいてもいいと思いますが、効果がないとか、逆に悪化するような場合は、継続すべきかどうかは慎重に考えていただければと思います。
四十肩 (五十肩) でサポーターを使うといいケースは?
サポーターというのは主に関節をやんわり固定するような役割があります。ギプスなどのようにがっちり固定するわけではありませんが、安静の助けにはなります。その役割を考えると、四十肩(五十肩)の根本治療のステップ1で解説したような肩に強い炎症があって、強い痛みがある場合にはサポーターを使うと徹底安静の助けにはなるかと思います。もし、そこまで強い痛みでなければ、サポーターや三角巾などで固定まではする必要がないことがほとんどですが、わずかでも肩が動いたら激痛が走るなんていう稀なケースでは短期間、使用を検討することも選択肢です。
四十肩(五十肩)の疑問解消! よくある質問に一気に回答
ここまでできる限りわかりやすく四十肩(五十肩)について解説してきたつもりですが、さらに、患者さんからよくいただくご質問にまとめて回答・解説していきたいと思います。ここまでの解説と重複する部分もありますが、ぜひご覧ください。
四十肩(五十肩)は、40代~50代の方に多く見られる肩の痛み全般を指す言葉です。正式には「肩関節周囲炎」という診断名が一般的で、さらに進行すると「癒着性肩関節包炎」「凍結肩」なんて言い方もします。国際的には四十肩(五十肩)ではなく凍結肩(frozen shoulder)が一般的です。
一体何が起きているかというと、肩関節の周りにある筋肉や組織、例えば腱板(インナーマッスルです)、滑液包(関節をスムーズに動かすための袋)、関節包(関節を包む膜)、靭帯などが炎症を起こしてしまうんです。この炎症によって、関節包が分厚く硬くなってしまい、肩の動きが悪くなって痛みが生じる、これが四十肩(五十肩)の正体です。
40代~50代に多いですが、30代や60代~70代でも起こり得ます。この年齢分布から、加齢性の変化も1つの要素ですが、それだけではないこともわかります。年齢が上になればなるほど、一般論としては肩を酷使しにくくなります。肩が活躍する場面が減ってくるんですね。それはスポーツであったり、力仕事であったりすると思いますが、ご年齢と共にそういう活動をする人が減ってくるわけです。結果、ちょうど40歳、50歳代の人に多くなるのではないかと考えています。
また、高血圧、糖尿病、甲状腺の病気がある方は、四十肩(五十肩)になりやすい傾向があります。
痛み方は人それぞれで、ちょっと痛いな~という程度から、激痛で全く動かせない!という重症な場合まで様々です。特に「凍結肩」まで進行すると、あらゆる方向に肩を動かすのが困難になり、可動域(関節を動かせる範囲)が狭くなってしまいます。夜も眠れないほどの夜間痛や、安静時でもズキズキ痛む安静時痛に悩まされる方もいます。
これまた重症度によってかなり差があります。軽い四十肩(五十肩)なら、数週間で痛みが落ち着くこともありますが、重症の場合は数年かかることもあります。特に可動域が狭くなる凍結肩になると、改善まで時間がかかる傾向があります。
四十肩(五十肩)の根本的な治療としては、硬くなってしまった関節包を柔らかくすることが大切です。
- セルフリハビリやストレッチ
ご自身で行うストレッチや運動療法で、少しずつ肩の動きを改善していきます。
- 内視鏡手術
関節包に小さな切れ込みを入れて、肩の動きを改善する手術です。
その他にも、
- 薬物療法
痛みや炎症を抑えるために、湿布や飲み薬、注射などを使用します。
- リハビリテーション
専門家の指導のもと、運動療法や物理療法を行います。
- サイレントマニピュレーション
麻酔をかけて肩関節を動かし、関節包を広げる方法です。
肩の痛みは、四十肩(五十肩)以外にも様々な原因が考えられます。例えば、
- 石灰沈着性腱板炎
肩の腱板にカルシウムが沈着して炎症を起こす病気です。
- 腱板断裂
肩の腱板が切れてしまう状態です。
- 頸椎疾患
首の骨や神経の異常によって、肩に痛みやしびれが生じることがあります。
自己判断せず、必ず医師の診察を受け、必要に応じて超音波検査やMRIなどの画像検査を行いましょう。
- あらゆる方向に肩を動かすのが難しい
- 肩の可動域が狭くなっている
- 強い痛みがある
これらの症状が見られる場合は、五十肩の可能性が高いですが、確定診断には医師の診察と必要に応じた画像検査が必要です。
はっきりとした原因はまだ分かっていませんが、加齢による肩関節の老化と、肩の使いすぎが関係していると考えられています。その他、血管の病気や生活習慣なども影響する可能性があります。
五十肩の治りやすさは、症状の重さによって大きく変わります。軽い四十肩(五十肩)なら数ヶ月で良くなることもありますが、凍結肩まで進行すると数年かかることもあります。
自然に治ることもありますが、後遺症が残ってしまう可能性もあります。適切な治療を受けることで、後遺症を最小限に抑え、より早く回復することができます。
四十肩(五十肩)でも夜間痛はありますが、腱板断裂や石灰沈着性腱板炎など、他の病気でも夜間痛が起こる可能性があります。自己判断は禁物!医師に相談しましょう。
これは、四十肩(五十肩)の症状や状態によって変わってきます。痛みが強い時は、無理に動かすと悪化させてしまう可能性があるので、安静にするのが基本です。痛みが落ち着いてきたら、少しずつ動かして肩の可動域を広げていくことが大切です。
重要なのは、「ベースの痛みが増さない範囲で動かす」こと。ベースの痛みが増さないかどうかは、動かした後時間が経って始めてわかるので、例えば、毎日朝起きたときの痛みで判断するなどの工夫が必要です。これらの痛みの度合いを見ながら、無理のない範囲でストレッチやリハビリを行いましょう。
- マッサージ
筋肉の緊張を和らげる効果が期待できますが、痛みがある部分を強く押したり揉んだりするのは逆効果です。痛みのない範囲で、気持ち良いと感じる程度の強さで行いましょう。
- 温める
基本的には、患部を温めることで血行が促進され、痛みが和らぐ効果があります。ただし、炎症が強い場合は、温めると逆効果になることもあるので注意が必要です。
- 冷やす
炎症が強い場合は、冷やすことで炎症を抑え、痛みを軽減する効果があります。ただし、四十肩(五十肩)で冷やす必要があるほど強い炎症が起こることは稀、逆に血管が収縮するため血流が悪くなって悪影響を及ぼす可能性もあります。
基本的には温めるのがおすすめですが、温めても痛みが引かない場合は冷やしてみましょう。自分の体に合った方法を試してみてくださいね。
四十肩(五十肩)のストレッチは、肩の可動域を広げることを目的とします。
- 前方挙上
両腕を体の前に伸ばし、ゆっくりと頭の上まで上げていきます。
- 外旋
両腕を体の横に伸ばし、肘を90度に曲げます。そのまま肘を固定したまま、前腕を外側にゆっくりと回していきます。
- 内旋
結帯動作とも言いますが、手を背中側に回す動作です。
これらのストレッチを、無理のない範囲で毎日続けましょう。
四十肩(五十肩)の中でも、凍結肩と呼ばれる状態になると、肩の動きが非常に悪くなり、可動域制限が長引くことがあります。半年経っても改善が見られない場合は、凍結肩の可能性も考えられます。
しかし、諦める必要はありません!ストレッチやリハビリ、場合によっては手術によって、肩の動きを改善できる可能性は十分にあります。
四十肩(五十肩)の夜間痛は、横になることで肩への圧力が高まることが原因の一つと考えられています。
- 少し起き上がり気味で寝る
背中にクッションなどを挟んで、上半身を少し起こした状態で寝てみましょう。
- 抱き枕を抱える
抱き枕を抱えることで、肩への負担を軽減できます。
- 痛い方を上にして寝る
痛い方の肩を下にすると痛みが出る人がほとんどです。ですから、寝返りで痛い方が下にならないように、周りにクッションなどをたくさん置いて、寝返りすら制限刷る方法もあります。
一度四十肩(五十肩)になると、再発することは稀ですが、全くないとは言い切れません。また、四十肩(五十肩)になった方の反対側の肩も、四十肩(五十肩)になることがあります。
一番やってはいけないのは、痛みを我慢して無理に肩を動かすことです。痛みが強い時は安静にし、痛みが落ち着いてきたら、無理のない範囲で少しずつ動かしましょう。
四十肩(五十肩)の治療法は、大きく分けて2つあります。
根本治療
- ストレッチやリハビリ
- 内視鏡手術(関節包に切れ込みを入れる)
その他の治療
- 薬物療法(湿布、飲み薬、注射など)
- リハビリテーション
- サイレントマニピュレーション(麻酔下で肩を動かす)
根本治療は、四十肩(五十肩)の原因そのものを改善することを目的としています。その他の治療は、痛みや炎症を抑えたり、肩の動きを改善したりすることを目的としています。
基本的には、毎日行うのが理想的です。しかし、これはセルフリハビリの話です。自宅で行えるからこそ、毎日できますし、さらに自分の痛みは自分にしかわかりませんから、痛みと対話して毎日適切な負荷でリハビリができます。
逆に毎日、通院リハビリするとなると、それに対応できる医療機関はとても少ないですし、なにより、どんな専門家でもあなたの痛みを感じることはできません。ですから、あなた自身で毎日行うことが何より大事だと考えております。そのためのやり方の指導や、成果などのフィードバックやサポートを通院時には行うことがオススメです。
四十肩(五十肩)のストレッチは、肩の可動域を広げることを目的とします。
- 保存療法(薬やリハビリなど)で症状が改善しない場合
- 痛みが非常に強く、日常生活に支障がある場合
このような場合は、手術を検討する必要があります。医師とよく相談し、自分に合った治療法を選びましょう。
残念ながら、四十肩(五十肩)を確実に予防する方法はありません。しかし、以下のことに気を付けることで、四十肩(五十肩)のリスクを減らすことができるかもしれません。
- 姿勢を良くする
猫背や巻き肩は、肩に負担をかけやすく、四十肩(五十肩)の原因になることがあります。
- 肩甲骨周りの筋肉を鍛える
肩甲骨周りの筋肉を鍛えることで、肩の安定性を高め、四十肩(五十肩)を予防する効果が期待できます。
- 生活習慣病を予防する
糖尿病や高血圧などの生活習慣病は、四十肩(五十肩)のリスクを高める可能性があります。バランスの取れた食事や適度な運動を心がけましょう。
四十肩(五十肩)は、適切な治療とリハビリを行うことで、ほとんどの場合改善する病気です。
終わりに
四十肩(五十肩)についてよくいただくご質問を元に解説いたしました。
実際、ご自身の場合はどうなんだろう?ということが一番気になると思います。当院では、最短当日に画像検査が可能ですので、その場合は、一度、受診いただき、検査していただければと思います。
お読みいただきありがとうございました。
つらい肩関節の痛みでお悩みの方、ご相談ください
夜痛くて眠れない方、軽くない痛みが持続している方など、肩関節の痛みでお悩みの方は、一度、ご受診いただければと思います。
まず、お身体の状態を知ること。原因の早期発見・治療が大切です。
横浜町田関節脊椎病院
日本整形外科学会認定整形外科専門医
医師 歌島 大輔