人工股関節置換術とは
人工股関節置換術は、変形性股関節症や特発性大腿骨頭壊死症のような病気で股関節が変形したり、軟骨がすり減り傷ついた部分を切除して、人工の機械の関節に置き換える手術療法です。人工股関節に置き換えることで、痛みをとり、動きをスムーズにし、安定した歩行を取り戻すことが手術の目的です。
人工股関節置換術でも、筋肉・靱帯へのダメージを必要最小限にとどめる「最小侵襲手術(Minimally invasive surgery)」を取り入れている病院が増えています。最小侵襲手術では、術後の痛みや筋力の低下が軽減するだけでなく、リハビリの早期開始や早期退院、早期の社会復帰が可能となり、皮膚の傷も小さいです。
また、入れた人工関節のゆるみや破損、感染などが原因で、入れた人工股関節を取り出し、新たな人工股関節を入れ直す手術のことを人工股関節再置換手術といいます。
人工股関節置換術|メリットとデメリット
人工股関節置換術のメリットとデメリットは以下のことが挙げられます。
人工股関節置換術のメリット
- 股関節痛の改善
- 股関節の動きやすさの改善
- 脚の長さが揃い歩行のバランスが良くなる
- 身体の他の部位や他の関節への負担が減る
- 活動できることが増える
人工股関節置換術のデメリット
- 脱臼・感染など合併症のリスクがある
- 血栓症に注意する必要がある
- 耐用年数がある
人工股関節の手術の入院期間
人工股関節の手術を行った場合、術式や術後の経過により個人差はありますが、当院では1週間から10日前後で退院となります。
手術後のリハビリで杖を使用した歩行や、階段昇降などの日常生活動作ができる状態で退院となり、退院後もリハビリ通院で経過観察します。
人工股関節置換術|合併症について
人工股関節置換術では、以下のような合併症が起こる可能性があります。
脱臼
人工股関節は脱臼することがあります。
健康な股関節は、関節包靭帯(かんせつほうじんたい)で守られているので交通事故のようなよほど大きな力がかからない限り脱臼しません。ですが人工股関節手術では関節包靭帯を一部もしくは大きく切除してしまうため、手術直後は脱臼しやすくなります。術後日数が経つにつれて人工関節周囲の支持組織が回復することで人工関節が安定し、脱臼しにくくなります。
術後は特に無理な姿勢を取らないよう注意が必要です。
血栓症(深部静脈血栓症(DVT)と肺塞栓症(PE))
血栓とは血管の中にできる血のかたまりです。
人工股関節手術に限らず、多くの手術の術中や術後に深部静脈と呼ばれる脚の太い静脈に血栓を生じることがあり、それを深部静脈血栓症(DVT)と呼びます。
この血栓が大きな塊のまま血管内を移動して肺動脈に詰まる場合があり、肺塞栓症(PE)と呼ばれ、いわゆるエコノミークラス症候群(旅行血栓症)として知られる命にも関わる重大な合併症です。
血栓症が重大な症状を起こさないように予防する取り組みが大切なため、当院では術中や術後の適切な場面で薬物療法や運動療法などによる血栓症予防に積極的に取り組んでいます。
神経障害
稀ですが、神経障害が起こることがあります。
人工股関節が設置されることによる脚延長などの軟部組織による神経の牽引や手術後の腫れ、内出血によって、神経が圧迫されることによりおこります。
皮膚感覚のしびれや力が入らない症状として現れ、後遺障害を残す場合もありますが、多くは時間をかけて回復します。
感染症
稀ですが、人工股関節の手術でも感染が起こることがあります。
人工関節が感染してしまうと関節機能を再建するために複数回の手術が必要になることもあるため、最も注意すべき合併症です。
当院ではリスクを最小限に止めるためにさまざまな取り組みを行っています。完全に予防することは難しいと言われていますが、手術を受ける方の術前の糖尿病治療や皮膚疾患治療など必要な体調管理がしっかりできていることも重要と言われています。
また感染には早期感染と晩期感染があります。
人工関節手術を受けたあと早期、手術の皮膚の傷が癒えるまでの期間の発熱や手術部位の発赤、腫れや痛みに注意することも大切ですが、それだけでなく、人工関節手術を受けて数年経つような晩期では、感染が血液などの流れに乗って人工関節に波及する可能性があることから、手術部位以外の感染症にも注意する必要があり、他の感染症の治療を受ける際には人工関節手術を受けている事実を伝えることが大切です。
骨折
転倒などにより、人工股関節を設置した周辺の骨に負担がかかり、人工関節の周りの骨が骨折してしまうことがあります。
骨折の状態を精査したうえで、股関節機能を再建できる適切な治療を選択します。
人工股関節のゆるみ、破損、摩耗
人工股関節を使用していると、ゆるみや破損、摩耗する場合があります。
ゆるみとは、人工股関節と骨の間に隙間ができ、人工関節の固定性が悪くなって設置がずれたり、痛む状態です。
その原因は様々ですが、その一つに細菌感染があり、細菌によって骨の一部が溶かされ人工関節と骨の間に隙間ができることや、骨粗鬆症により人工関節の周りの骨が細かく崩れて人工関節と骨の間に隙間ができること、などがあります。
予防には骨粗鬆症の評価と治療が大切であり、ゆるみが生じた場合は原因を精査したうえで適切な対応が必要です。
破損とは、人工股関節に大きな負荷や大きな衝撃が加わることで起こるインプラントの破壊のことです。
欧米諸国のような大きな体格の人も想定してインプラントは設計されており十分な強度が保証されていますが、金属疲労などの経年劣化の要素に負担や衝撃が加わることで破損してしまう可能性があります。
過度の負担や衝撃を加えないことで予防できます。
摩耗は主に人工股関節を構成するポリエチレンや金属部分に見られます。
材料技術の進歩で以前の人工関節よりも磨耗することは減りましたが、摩耗すると素材の摩耗粉が周辺の骨を溶かして人工股関節にゆるみが生じたり、磨耗変形によって人工関節のスムーズな動きが妨げられることがあります。
これらの場合、人工股関節再置換術を検討します。
金属アレルギー
人工股関節に使用される金属は主にチタン合金で、人体への影響が比較的少ないとされています。ですが金属アレルギーの既往がある場合はアレルギー反応が出ることも考えられますので、手術の前に必ず医師に伝えてください。
人工股関節置換術|術後の生活
人工股関節の術後の痛みのピークは手術直後です。その後は時間の経過とともに軽減し、術後2〜3日で強い術創部の痛みは落ち着いてきます。痛みに対する処置は、痛み止めの飲み薬や座薬、注射などで対応します。
術後、しばらく時間が経過すると、股関節に痛みを感じない方が多いのですが、一部の方には痛みや違和感が残る場合もあります。仮にこのような症状が残ったとしても、日常生活の動きに支障はほとんどありません。
人工股関節の術後のリハビリはどのくらい続ければいいですか?
人工股関節の術後のリハビリ期間には個人差があります。
一般的には、2〜3週間で杖を使って歩けるようになる方が多いですが、当院では手術当日、もしくは翌日からリハビリ歩行を行うなど、リハビリと術後疼痛管理を工夫することで、2週間程度の入院期間で退院が可能です。
退院後も通院のリハビリはもちろん、自宅でもリハビリ運動メニューやストレッチを続けることが欠かせません。リハビリを根気よく続けながら、多くの場合3ヶ月程度で人工股関節が体になじみ、日常の動作に支障がなくなると考えられます。
ただし、術前の症状が非常に重く、筋力が落ち、股関節の動かせる範囲が極端に狭くなっている場合には、術後のリハビリ期間が長くなる傾向にあります。
人工股関節の手術後に気を付けるべきことはありますか?
人工股関節の手術後には、脱臼や摩耗、感染を防ぐために以下のことに注意が必要です。
姿勢
横座りや脚組み、しゃがみこみは避けましょう。人工股関節が脱臼する可能性があります。
トイレ
トイレは洋式トイレを使ってください。和式トイレしかない場合はトイレの簡易改修なども念頭にする必要がありますが、そのまま使用する場合には人工股関節の脱臼危険姿勢にならないよう注意が必要です。
過度な運動
適度な運動で股関節周りの筋肉を鍛えることは大切です。理学療法士のプログラムに沿った自宅でのリハビリテーションはしっかりと行うようにしましょう。
水泳や水中ウォーキングといった体重のかかりにくい運動や、軽い運動は無理なく行えますが、開始のタイミングは主治医と相談してください。
立ち上がりの動作
椅子に座るときや立ち上がるときは、反動を付けずにゆっくり行いましょう。
他科診療受診
人工関節に感染を波及させないためには元気な体が大切です。糖尿病治療で血糖値を安定させ、皮膚科治療で足白癬(水虫)などの皮膚病変があれば速やかに治療し、歯科口腔外科治療では虫歯や歯槽膿漏に速やかに対応することが大切です。
スポーツ
ジョギングやスキー、テニス、野球などの激しい運動は、破損や磨耗、脱臼の原因となりやすいので開始するタイミングは主治医と相談しましょう。
特にサッカー、柔道、レスリングなどのコンタクトスポーツは避けましょう。
個人差がありますが、人工股関節の術後にゴルフをすることも可能です。ただし、身体をねじったりしゃがんだりといったゴルフ特有の動作は、人工股関節の脱臼に注意が必要です。
また、人工股関節の術後、ゴルフをする習慣のある方とない方と比較して、ある方のほうが運動機能および下肢の筋肉が維持もしくは向上している可能性が示されています(※1)。
(※1)参考:人工股関節置換手術後のゴルフが下肢筋力及び QOL の評価に及ぼす影響
人工股関節置換術をお考えでしたらご相談ください
当院では最小侵襲手術(MIS)による人工股関節置換術を施行しており、細部にわたるまで丁寧に手術を行うよう心がけております。
股関節の違和感や痛みを感じている方や、さまざまな治療法を試したけど症状が改善しない方は、ぜひ一度当院にお越しいただき、お気軽にご相談ください。